APATHETIC STORY:1

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 ユミルの奥地にある石碑の前で舞っているリィンを影から見つめる。それを見て、やっぱりリィンが封印を守る神子なのかと、俺は拳を作り握りしめる。
隣にいる野郎は面白そうにリィンの方を見てやがるし。
「そろそろ穢すか?」
「それは俺がやる……!」
「だったら早くしろ。お前が動かなければ、俺があいつを穢してやるよ」
「っ……!」
「お前じゃ、穢せる確率は低いだろうがな……クク」
そう告げるこいつを睨みつけるが、無意味なのはわかっている。それに、こいつが本気を出せば俺なんて簡単に倒せるだろうしな。
俺じゃあいつを穢せる確率が低いかもしれないというのは、わかっている。俺もリィンと同じように神子だったのだから。本質は同じ。だからこそ、あいつを穢せないかもしれない。だけど俺は修羅に落ちた。それに僅かな望みを持って、あいつを穢せれば、あいつを俺の手で解放できれば──。
そんなことを考えていると、いつの間にか舞が終わったらしく、リィンは石碑に触れると石碑は少し光ったかと思うと、すぐにそれは消えていった。
それでホッとしてるリィンだったが、やはり若干疲れているようにみえる。鬼の力を持っているリィンが舞うには負担が大きすぎるのだろう。
そんなリィンの前に、俺は姿を現す。
俺の姿を見たリィンは、かなり驚愕していた。
「よう、リィン」
「……ク、クロウ……」
警戒してるようだ。
まぁ、それはそうだよな。
「リィン、どうした? 久しぶりに恋人に会ったのに、何故そんなに警戒してるんだ?」
「クロウ、ここに何しに来た!」
俺の問いには応えず、リィンは太刀を手にし、構えている。さっきまでは綺麗な舞を舞っていたのに、今はもう、厳戒態勢でこちらには敵意を向けてくる。
「なぁ、リィン……封印を解いてくれないか?」
「誰が……そんなことをしたら魔物が復活して……!」
「あぁ、だが俺の目的のためにも、封印解いてもらわないと困るんだよ、リィン」
そう、解いてもらわければ。俺の目的のために。そしてお前自身を助けるために。
双刃剣を取り出して、構える。
内戦が始まる前は俺の正体を知られるわけにはいかなかったから仮面をつけていたが、今は仮面をつけていない。
初めて見るであろう俺の表情にリィンはビクッと、一瞬なったが、負けずとこちらを睨みつけている。
こいつが神子じゃなかったら、良かったのにと思わずにはいられねぇが、今はそんなことを言ってる場合じゃねぇ。さっさと封印を解かねぇとな。
「封印を解く方法…神子に解かせるか……」
こいつは絶対に自分から解くことはないというのはわかっている。
「神子を……お前を穢すかだ」
「っ!」
俺は攻撃を仕掛ける。リィンはそれを何とか防ぐが、俺が連続で攻撃を仕掛けると、最初はなんとか凌いでいたリィンだったが、徐々に俺に押され始め、後がなくなってきたところで、俺はリィンの太刀を弾き飛ばし、怯んだリィンの腕を掴みその場に倒して身動きできないように押え込む。
「リィン」
「やめろ、クロウ……!」
「止めねぇ。俺がお前を、穢す」
「っ……」
リィンは俺から何とか逃げようとしているが、俺はそれを阻止する。
「悪いが、逃すわけにはいかねぇんだよ」
リィンの唇に自分の唇を重ねる。
そうするとリィンはますます逃げようともがくが俺はリィンを強く抱きしめ、逃げれないように固定する。そして、睡眠薬をそのまま飲ませる。
「ん! んん……」
リィンは最初何とかそれを飲み込まないようにしていたが、しばらくすると、我慢できなくなったのだろう。飲み込む音が聞こえ、リィンの体から力が抜けた。
眠りに入ったリィンを抱える。
「……リィン……」
俺の中で眠っているリィンの頭を撫でる。
学院にいたときと同じように──。
「ふん、ここではやらないのか」
そういえばこいつがいたな。
俺は何も言わずに立ち上がる。
こいつは──マクバーンはダルそうに転移の術を発動させた。俺たちの姿はそこから消えた。

サイト掲載日 [2015年1月17日]
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