Scars of the divine wing:7

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指に走った痛みと、歯型をなぞるように這わされた舌にぞくりとした。
本人は無自覚らしい色気に、眩暈すら覚える。

「……っん」

柔らかく薄い舌を指先で遊びながら口蓋を撫でてやる。左手で肌蹴た胸元に触れれば、びくりと身を震わせた。
わかりやすい反応に覚えるのは憐れみと愛おしさ。欲しくても欲しいと泣くこともできずに黙って諦めるつもりだったものが、自分から転がり落ちてきたんだ。手に入れて何が悪い?
太刀を振るために鍛えられた胸筋は見た目よりも柔らかくしなやかに掌に吸い付くよう。噛みついて吸って後を残したくなる欲は、飲み下す。
あまり欲張りすぎては手に入るはずのものも逃がしてしまうだろう。
形を確かめるように、掌で、指先でその体の表面を辿っていく。羽で撫でるように、軽く柔らかく。組み敷いた体が跳ねる場所は、重点的に。
気丈で負けず嫌いな子供がそれを隠そうと身を捩って逃げを打つのを捕まえて引き戻して。
逃がしてなんか、やらない。

「……っ、クロウ、」

戸惑うように、耐えがたいように。リィンが声を上げる。

「いいかげん、しつこくないか……」
「なんだよ、物足りなくなったか?」

喉奥で笑って、つ、と脇腹を指先で撫で上げてやる。それだけで息をのんで震える体に満足して、口端を吊り上げた。

「ちがっ……そうじゃなく、て」

慌てた様子でリィンが首を横に振る。
けれど、どうしてほしい、と要求はしない。戸惑っているんだろう。もともと、男色の趣味があるわけでもそういう対象とみられることにも慣れてはいない、無垢な子供だ。

「女の子じゃないんだから丁寧に優しくする必要とか、ないだろ」

ずいぶんと『面倒くさい』思考傾向を持っている子供はそういって、眉を寄せる。

「あのなぁ……」

シャツがまとわりついている分、全裸よりある意味艶めかしい体を、抱きしめる。肌蹴た部分だけ、肌を合わせて。

「たとえばお前が俺を抱くとする」
「……ええ」

なんだその反応。
半眼でじっとりと睨めば、リィンはしぶしぶ考え始める。どんな想像をされてるのかはこの際考えないことにする。

「慣らして突っ込んで出してお互いにすっきりしてそれで終わりにしたいか?」
「それはなんか……うーん、いや、でも」

ますます渋い顔をする子供に苦笑して、黒髪を撫でてやる。

「つまり、だ」

髪から頬を滑らせて、濡れて少し腫れた唇に指で触れる。

「俺がおまえをかわいがりたいんだよ」

わかれよ、と囁いて。唇に触れるだけのキスをする。
そうすれば子供は、ずいぶんと嫌そうな顔をした。どうせまた、子ども扱いされたとか女扱いされたとか挙句は犬扱いだとか、その頭の中で考えているんだろう。生憎小児性愛も獣姦の趣味も持ち合わせてないんだが、この子供の頭の中で自分がどういう存在として認識されているのか問いただしたい気がしなくもない。
渋面から、ふうと嘆息を吐いて。
しょうがないというように苦笑を浮かべる。

「仕方ないから、受け入れてやるよ」

どういう結論に至ったんだか。リィンの腕が俺の首へとまわされ抱き寄せられる。

「来いよ、クロウ」

耳元で。
全部許すみたいに笑う気配。
Ⅶ組の重心様はずいぶんと御心が深いらしい。

「ああでもそっか。俺がおまえをヤれば問題はないんだよな」
「あのな……おまえの顔と声でそういうこと言うなって」

唐突に言い出した内容に、苦笑した。それはいろいろと、あれだろう。そもそもどこで『ヤる』なんて言い回し覚えてきたんだ。Ⅶ組の連中あたりに知られればきっと、俺のせいにされるだろう未来が予測できる。

「駄目か? おまえが言い出したくせに」
「清廉なリィンくんは俺なんかに欲情しないだろうが」
「なんだ、それ」

冗談めかして笑えば。くすくすと笑って、首に絡んでいたリィンの手が俺の髪に触れた。

「クロウとならなんとなく、いけそうな気がするけどな」

うなじを滑った指先が後ろ髪を捕えて、頭ごと引き寄せられる。この子供がどんな表情で口にしたのか見えないのは、少し惜しい気がした。声音から、想像することしかできない。
右の耳元で響いた水音と、ぬるりとした感触。
甘えるように、そこにあるピアスごと噛まれるのは悪くはない。思えば前に散々噛まれた時でも嫌悪感は欠片も抱かなかった。
最初から。この少年との心理的な距離感はどこかおかしかった気がする。自分から最も遠いはずなのに、近しい存在に思える。許容の域が、他者よりも深い。
付き合いの長さではジョルジュやゼリカやトワ、ヴァルカンやスカーレットよりずっと短いというのに。
《起動者》と、その候補としての類似性か。それとも、もっと別の何か。
少なくとも、いくら監視するべき対象だとしても面倒を起こしてまでクロスベルくんだりまで来ている時点で。言い訳自体無意味なんだろう。
まぁそれでも、大人しく喰われてやる余裕は正直なところ、皆無。後のことを考えれば特に。
身を離して、見下ろして笑う。

「俺を喰いたいなら、せめて俺に勝ってから、な」
「それなら」

うっすらと笑みを刷いて強気な眸で睨み付けてくる。

「絶対に、勝ってみせるさ。クロウ」

実際。この子供ならばいずれはありえるだろう。
ほんの二年分、三年分の経験の差くらい、詰められるのはきっと、それほど遠い未来でもない。
この子供や、あの放蕩皇子殿下にはせいぜいがんばってもらわないとこちらとしても困るんだ。色々と。

まだ熱を持って疼いているだろう右の耳朶に、唇で触れてやれば腕の中の体がびくりと跳ねた。
そのまま舐ってやれば、微かに息を詰める。
そう簡単に、主導権を手渡してなんか、やらない。今はまだ手札は、こちらの方が有利だ。
耳を食みながら、手を伸ばす。シャツに半ば隠されている胸元を、腹を、手探りで触れる。
まだ反応を示してはいないそれを、掌で包むように握りこむ。喉奥で笑みを零して、やわやわと揉みあげてやる。

「クロ、ウ……っ」

戸惑うような、喉の奥に蟠る声にぞくりと湧いたのは、暗い愉悦と独占欲。他の誰も、この存在にこんな風に触れてはいないと、――それが事実でもそうでなくても。
何がいけそうな気がする、だ、と。結構きつい自分の状況を振り返って浮かぶのは自嘲だろうか。
それでも生理的な反応で、指を押し返すように弾力を持ったものが掌で脈打つ。食み続けている耳も、首筋や頬も紅潮していて。
耳から口を離して見下ろせば、紅く染まった目元にジワリと涙と、劣情が滲んでいる。
普段の幼気な清冽さとのギャップにくらくらと眩暈がすると同時に、こいつも男なんだなと安心したような思い知ったような不思議な感覚を覚える。別に無性だとか天使だとか思っていたわけでもないけれど。
綺麗に筋肉のついた脚を割り開いて、握りこんだままの中心に唇を寄せた。
息をのむ気配と、どこか期待するようにびくりと跳ねる動きに目を細めて、先端に口づけるてやる。とろりと溢れてくる腺液ごと敏感な先端を吸い上げてやれば、内腿を震わせてかすかに声が上がった。
咥えたまま視線を上げれば、頬も耳も赤く紅潮させて、涙目で切なげにこちらを睨み付けてくる。その眸に見せつけるように、深く喉奥へと迎え入れてやった。
反射的に震える喉奥で締め付けながら敏感な裏筋を舐めあげて。自由な両手で、熱が溜まって重くなっているだろう陰嚢や会陰を柔らかく刺激してやる。同性だからこそ、どうされれば気持ちいいか、どこが弱いかくらい知っている。体液が混じりあった隠微な水音があえて響くように、ゆっくりと煽るように。舐りあげる。
とぷりと口腔に流れ込む腺液の量が増えて濃くなった気がした。舌を押し上げる弾力が、さらに強くなる。

「クロウ……っ」

狼狽える様に震える声と、指が髪に絡んだ。そのまま掴んで好きなように動かすのかと思えば、優しく引きはがそうとするように動く。

「も、いいから……っ、口、離せって」

馬鹿じゃないのか、と目を細める。
力づくで引きはがすことだって、できるだろうに。まぁ簡単には離れてなんかやらねえけど。
じゅっと吸い上げてやれば奥歯を噛みしめて必死に耐えているのだろう。筋肉もがちがちに緊張していて。引きはがそうと動いていた手は、俺の髪を掴んだまま縋るように硬直している。
そんなに頑張られてしまうと、こちらとしても意地でもイかせてやりたくなるだろうが。
弱い括れた部分に舌を這わせて、先端をきつく吸ってやる。

「……ひっ、ゃ、あ……吸う、なクロ……っウ」

もういい加減限界なんだろう。張りつめた茎は解放を待ちわびるように震えていて、泣き声に近い声は、思いのほか下腹にクる。
加虐趣味も持ち合わせているつもりはなかったけれど、この子供だけは例外らしいと苦笑して、舌先で鈴口を抉ってやった。

「――っん」

喉奥に叩き付けられる飛沫をそのまま嚥下する。

「……っ、クロウの、馬鹿」
「んだよ?」
「そんなの、吐き出せって」

ぎりぎりまで吐精するのを耐えていたせいだろう、常になくくったりと弛緩したままリィンが眉を顰める。

「なんだ、自分の精液見たかったのか?」
「ちがっ……!!」

ぶわぁっと顔を赤くしてふるふると首を横に振る。

「じゃあ文句はねえよな?」
「……クロウ」

まだ顔は朱いまま、ふにゃりと身を起こして半眼で睨みつけられる。

「初心者に咥えさせるほど餓えてねぇよ……それにおまえなんか噛み千切りそうだしな」

口にしてみれば、その惨状を想像してしまってぞっとする。ないな、うん。
リィンを見遣ればどこか納得がいかない様子で目を眇めている。
別に子供扱いしているとか馬鹿にしているつもりはない。この先の行為はただでさえ受け入れる側の負担が大きいからここで無理させるのもかわいそうだろう。
ぽふぽふと頭を撫でて、耳を舐めあげる。

「……っ」

びくりと跳ねた体を撫でてやって、一度ベッドを降りた。
途端、心細そうな表情を浮かべられて。苦笑して頭を撫でてやる。

「どこにもいかねえよ」

今は。という言葉は口にはしない。
リィンを置いて向かったのはバスルーム。化粧台の上に並べられた小瓶を一つ手に取って寝室へと戻る。

pixiv [2013年12月31日]
© 2013 水瀬

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