CRAZY TRAIN:3

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ユミルで過ごしてすでに12年。俺も17歳になり、トリスタにあるトールズ士官学院に入学が決まっていた。
マスターは結社の計画が始まったからか、前よりは会えなくなってきたけれど暇を見つけては会いに来てくれる。それだけでも俺は嬉しく思ってしまう。毎回置いて行かれて捨てられたという思いは強いけれど──。
それでも子供の頃、俺がまだ自分の状況がわかっていなかった時にマスターに捨てないでと縋りついた時にマスターがしていたアクセサリーを俺だと思ってつけていろとくれたアクセサリーはいまだに俺の宝物になっている。
マスターにもお返しとしてアクセサリーを渡したけど、すでに捨てられているかもしれないけれど。
(……そう考えただけで悲しくなるな。それでもやっぱりマスターが一番なんだろうな)
郷での手伝いを終え、部屋に戻ると一通の手紙が机の上に置かれていた。
(母さんは何も言わなかったけど、誰からだろう……?)
その手紙を手に取ると、懐かしい気配を感じた。
急いで中身を開けると、そこには「入学前に帝都に来い」とだけ書かれていた。めんどくさがりのマスターらしく、口元が緩んでしまう。
でもそこでふと疑問に思う。
「……入学前って…いつ行けばいいんだろう? 帝都のどこに?」
前日でいいのかな?と思いながら、近づく士官学院の入学式に向けての準備を進める。
それから数日後、まだ入学式には日はあるが、俺が一人でいるときにマスターが目の前に現れて遅いと言われた時には驚いたけれど、日付も場所も書いてないとわからないと告げると、忘れてたと言われた。
「マスター…ちゃんと日付と場所ぐらいは書いておいてください」
「あ~…そうだな」
ガクリと肩を落とすが、マスターらしいなとも思う。
「それでマスター? 何かありましたか?」
「それは目的地についてから話す。お前、今から出れるか? そのまま入学式が始まるまで俺のもとにいられるか?」
「予定よりは早いですが、準備は整ってますのでマスターの言われたとおりにできますが」
「わかった。……もう戻れないかもしれないが、それでもいいのか?」
「俺は、マスターの命令なら二度と戻れなくても構いません」
「良い答えだ、リィン」
幼いころされたように頭を撫でられる。それだけでも嬉しいと感じてしまう。
確かにユミルで育てられた12年間は幸せだったんだと思う。それでも、やっぱり俺にはマスターといるほうがよくて──。

それから俺は、予定より早いけど育ててくれたシュバルツァー家の領主夫妻に挨拶をして、俺は屋敷を出た。おそらくもうここには戻ってこないだろう。約12年間世話になって思い出もたくさんあるけれど、それでも俺はマスターを選ぶと決めているからこそ──。
シュバルツァー家の飼い犬であるバドにも元気でなと告げると、俺がもうこの家に戻ってこないと決めているのがわかるのか、悲しそうな鳴き声で鳴いていた。
「ごめんな……父さんや母さん、エリゼを頼むな、バド」
そう告げると任せろと言ったような感じで鳴いたバドの頭を撫で、俺はその場から離れ、マスターの元へと向かう。
鉄道で行くのかと思ったが、マスターに抱き寄せられ、そのままマスターの転移ですぐに帝都につく。内装から見て、かなり高級な建物の中だとわかる。
「あの、マスター……? ここは、一体……?」
「帝国の貴族共が用意した別荘みたいなところだ。リィン、学院が始まるまではここで過ごせ」
「よろしいんですか……?」
そう言われてもと思ってしまい、マスターに聞いてしまう。
「あぁ。ここにいろ。学院に入学すると寮暮らしになるだろう? そうなるとしばらくはまた会いないだろうからな、だから入学まではここにいろ。お前は俺の番だ。遠慮することはない」
番──。ずっと幼い頃から言われてきたけれど、だけど一度捨てられた身としては、遠慮してしまう。それに、風の噂で剣帝レオンハルトは死んだと聞いた。だからまた呼び戻されたのだと、剣帝の代わりなんだと、そう思い込んでいた。

サイト掲載日 [2015年7月10日]
© 2015 唯菜

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