血に酔う:2

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窓から見える世界は闇色に染まっている。
リーヴスにあるトールズ士官学院第Ⅱ分校が所有している宿舎の自室でリィンは暗い空を見上げながら軽い溜息を吐き出していた。
クロウベルの演習から帰って来て5日が過ぎている。一緒についてきたセリーヌは宿舎の中でお気に入りの場所を見つけたようでここにはいなかった。

鬼の力を使えるようにとセリーヌと共に訓練をしているが、改善する兆しは見えていない。まだ5日しか経ってはいないが、リィンの中では焦りがあった。結社が動き出したのだ。いつ彼らとまた対峙する可能性がある。その上、地精と名乗る組織も姿を現し、帝都を覆う不穏な空気は晴れていない。

窓から視線を外すと、シャラリと首に掛けてあった金属が音を立てる。エマから借りている鬼の力を押さえるためのペンダントだった。自分だけの力で己の中にある不可思議な力を押さえられなく、手助けを貰ったのはこれで二回目だ。
発作のような胸の痛みと暴走の予兆を防いだのは、クロスベルで対峙した男のおかげだった。

数か月ぶりに見たマクバーン。トールズ士官学院を卒業する前に、学院の旧校舎近くで出会い、血を与えられた。そのおかげでエマ達と出会うまで暴走することなくどうにか力を押さえることができていた。だがやはり最初の演習から自分の中にある力の制御がまた弱くなっているのはわかっていた。そして感じていた炎のようなマクバーンの力の気配が薄くなっているのを。
もしこの気配が完全に消えたら、ペンダントやセリーヌが居たとしても、力の暴走は止まらないのでは、そう考えると身体が震えてしまう。

また血を貰えれば。ふとそうな思考が浮かぶ。だが同時にあの時の記憶を思い出してリィンの頬は赤く染まった。血の反動だとマクバーンは言っていたが、まさか血の所為で欲情するとは思ってもいなかった。ぼんやりとした思考と身体は熱く、血が欲しくてまるで飢えた獣のような自分。触れてくる手が更に身体を熱くして、性器はその感覚に素直に反応した。そして初めて体内に侵入した彼の雄はどこまでもリィンを熱くそして気持ちよくさせて、思考を白く染め欲望を植え付ける。けして嫌ではない、終わった後に感じたのは名残惜しさ。

「はは、どうかしているな」

力なくベッドに腰かけるとリィンは乾いた声を上げた。結社のそれも同性相手にまた同じように助けを求めるのか。抱かれるのに抵抗を感じない自分はどこかおかしいのかもしれない。それでも記憶に残った肌の触れた感触や伝わってくる熱さ、そして刻まれた快楽は間違いなくあの時リィンをマクバーンをすべて受け入れていた。

胸に手を置き体内に残る彼の気配を求めるように目を閉じる。小さな気配なのに伝わってくる力強さはまるで彼その者だ。

「マクバーン」

小さく彼の名前を呟く。それと同時に背後に人の気配に気づいた。顔を上げ後ろを振り返ろうとした瞬間、強い力でベッドへと押し倒された。視界が揺れる。相手を見ようと目を見開き、知ったその顔にリィンは動きを止めた。

「また呼んだな」
「ま、マクバーン……」

呆然と彼の名前を呼ぶ。突然の出来事に思考と身体が動いてくれない。
相変わらず眠そうな瞳をしているのにその奥は獲物を前にした猛獣のような輝きがある。

「ああ、だいぶ弱くなってるな。まぁ、クロスベルで会った時に感じてはいたが」
「……どうして、ここに?」
「呼んだだろう。前と同じだ」

確かに前も彼は唐突に表れ、意味不明な事を言っていた。確かに今回はマクバーンの名前を呼んだがそれだけで彼が出てくるとは思ってもいなかった。二人分の体重を受けてベッドが軋む。喉の奥がカラカラと乾燥していく。

「また血が欲しいか?」

その声は誘惑する甘い言葉。血の匂いを思い出し無意識に喉が鳴る。心のどこかで逃れられないと声が囁いた。

***

次の計画の為に訪れた帝国内のとある場所。木々の匂いがするが、遠くに見えるのは海だ。
ふと、声が聞こえた。それはマクバーンにしか聞こえない音。最初に聞いた時は誰の求めている声か分からなかった。本来なら聞こえてきた声に興味などもたない。だがその時は何故か気になってしまった。たぶん気まぐれだ。転移術で移動した先に見慣れた奴の姿を見かけて納得した。聞こえてきた声を知っている気がしたからだ。
そして今日もその声が耳に届く。クロスベルで会って時は、求める姿など見せなかったというのに、また声が聞こえた。

「おや、どこか出掛けるのかな?」

動き出したマクバーンに対して道化師が声を掛ける。その目は好奇心に彩られていた。

「ああ、しばらくは戻らない」
「そう、灰のお兄さんによろしくね」

相変わらず全てを見通しているように言葉を紡ぐ。だがそれぐらいこいつなら出来ると知っているマクバーンは肩をすくめると、転移術を発動させた。声に導かれるように移動した先はどこかの部屋だった。部屋の主は移動してきたマクバーンに気付かない。完全に気配や存在を消しているので、気付かないのも仕方ない。素早く部屋の鍵を閉め、そっと相手の様子を伺う。

「はは、どうかしているな」

自傷ように言葉をもらすリィンの顔は酷い色をしていた。

「マクバーン」

どこか呆れたような、それでいて未練が残っているようなそんな音色がする。部屋の主である――リィンがベッドに腰を掛けながらマクバーンの名前を呼んだ。己の血を与えたことにより、霊力の繋がりが出来た。その所為だろうリィンの感情が伝わってくる。最初の声は力の暴走に恐れて助けを求める声だった。本人はそんな声を心の内で漏らしていた事に気付いていない。だがマクバーンには聞こえた。そして二回目に聞こえた声は、暴走を恐れるものと、微かにマクバーン自身を求めている声だった。
だから消していた存在を表し、心が動くままリィンの身体をベッドへと押し倒していた。一度知った彼の味。同性を抱くのに嫌悪はないが、血を与えた時の乱れたリィンの姿はどこかマクバーンを惹きつけた。
目を見開きマクバーンを見つめているリィンの姿に、マクバーンの口元が上がる。

「また呼んだな」
「ま、マクバーン……」

リィンの瞳の中に驚きとそして微かな欲情の色が見えた気がした。ふと、リィンの身体の中のある己の血の気配を探る。クロスベルで出会った時よりも小さくなっている。

「ああ、だいぶ弱くなってるな。まぁ、クロスベルで会った時に感じてはいたが」
「……どうして、ここに?」
「呼んだだろう。前と同じだ」

本人は呼んでいる自覚はないが、声なき声は確かにマクバーンには聞こえていた。誘惑するように囁く。

「また血が欲しいか?」

リィンの瞳が揺れている。迷いを読み取り、そっと拘束していた手を放し、上半身を持ち上げるとマクバーンは躊躇わず自分の右の首筋に爪で切り口を入れた。自分の身体を傷つけるのは簡単だ。軽い痛みは感じるが気にするレベルではない。血の匂いがする。リィンの目が傷つけた首に釘付けになっていた。

「欲しいか。求めるなら与えてもいいぜ?」

ごくりとリィンの喉が鳴るのが聞こえた。すでに血の味を覚えている獣の目をしている。誘われるようにリィンの身体が起き上がり、じっと傷口を凝視していた。抗うとするだけ無駄だと、すでに血の味と力に溺れている者がその誘惑に勝てる見込みなどないのだ。そっとリィンの顔が近づき、舌先がマクバーンの傷口を舐めた。まるで猫が舐めるように舌を動かすリィン。そっとその腰に手を回すが、血に意識を奪われているリィンは気づいてもいない。その方がマクバーンには都合がいい。

この場所はリィンの私室のようで、普段着ている上着や装飾類は身に着けていない。シャツ一枚とズボンというラフな格好にマクバーンの口元が緩む。ゆっくりと足元から腰を撫でるとリィンの身体が震えた。血の力の反動。マクバーンの血は特殊だ。リィンの中にある暴走する力を押さえる。だが強すぎる力は何かしらの影響が出る。リィンはマクバーンの血を摂取すると、欲情する。むしろまだマシな部類になる。強すぎる力は人を狂わす。人によって化け物に変わる者や、人格が崩壊する者もいる。マクバーンと同様に混ざっているリィンなら大きな反動は起きないとは思っていたが、欲情とは変わった反応が出た。一度リィンの身体を喰らったが、それは甘美な気持ちよさをマクバーンに与えた。

「あっ、うン――」

マクバーンが撫でるとリィンの口から甘い声が上がる。だがすぐに血を舐めることに集中するリィン。静かな空間に聞こえるのはリィンの血を舐めとる音だけ。すぐにリィンを抱くことは簡単だ。血を十分与えてから対価を貰う為にマクバーンは、リィンの中に自分の力が満たされるのをじっと待った。
こくりとリィンの喉が鳴る。血を飲み込む音が響く。

(時間だな)

少なくなっていたリィンの中にあった自分の力が増えたのを感じた。それでもリィンは血を求めるのを止めない。中毒者のごとく。

「さて、対価を貰おうか」

リィンの身体をベッドへと押し倒す。そして軽く立ちあがった彼の下半身を見てマクバーンは口元を緩めた。リィンの足を広げ、その間に身を滑らせる。そして彼の上に圧し掛かり、眼鏡を外すと、欲情に溺れた瞳をしているリィンの唇を奪う。唇の中に舌を差し手込、口の中を舐めまわすと、鈍い動きのリィンの舌がマクバーンの舌に絡み付いてきた。リィンの手は弱々しくマクバーンの服を掴んでいる。それが可愛らしく思えて不思議な感覚だ。唇を離すと、血の影響かとろりと色気を纏ったリィンの姿があった。目の前の獲物にマクバーンは笑みを崩す。

「いい顔だ」

リィンのズボンと下着を一気に取り払うと、彼の性器の先からは欲の先走りがあふれていた。部屋にある導力灯がリィンが吐き出す欲を妖しく照らしている。マクバーンはその姿を見つめながら、指を双臀の奥、秘められた場所に指を伸ばした。前回、マクバーンの性器を咥えこんでその場所。指を押し入れると、軽い抵抗は感じるが中はまるでマクバーンを待っていたように濡れていた。ぐちゃりと卑猥な音が聞こえる。何もしていないのにしっとりと濡れた孔。マクバーンの血の影響か、それともリィン自身が男の味を覚えしまった変化か、本来男が濡れるような場所でない所が、濡れている。

「あっ、やっ……」
「ほう、血の所為でこうなったのか。それとも別の原因か、まぁ、いい。すぐに喰えそうだ」

指を引き抜き、マクバーンはズボンのファスナーを下した。そこから現れる欲望の塊。リィンの艶めかしい姿に反応した自分の性器。早くリィンの中に喰らいたいと大きく変化していた。彼の足をく持ち上げ広げると両手で固定する。浮いた腰と双臀の間に性器を差し込む。指と同じように先を突き立てる。指と違って大きさが違う為、抵抗は強い。ぎしぎしとリィンの孔は抵抗してくる。それと同時にリィンの口から悲鳴がもれた。だが止める理由もないので、そのままゆっくりと侵入する。孔の中は抵抗していたとは思えないほど、滑りがよくマクバーンの肉欲を包み込む。誘われるように奥まで進むと、滑った壁が律動する。
リィンの身体を眺めると彼の腰が揺れ動いていた。悲鳴を上げていた声は、艶やかな喘ぎに変わりマクバーンの耳を楽しませている。

「そんなにこれが欲しかったのか」
「あっ、ああアン。あつい、もっと、あああ――」

リィンが求めに応じてマクバーンは腰を動かす。引いてはまた奥へと叩き込む。その度にベッドが軋む。ふと、マクバーンの意識に人の気配が引っかかる。二人がいる部屋の扉が叩かれた。

「教官、いらっしゃるんですか? 悲鳴が聞こえた気がするんですが」

リィンが大きく反応した。口元を押さえて見る見る顔色が青くなっていく。なのに身体はマクバーンを求めて揺れ動いている。このまま人の前で抱くことも一興だが、熱に浮かされ欲に溺れるリィンの姿を自分以外の見る事に不快感を覚えた。扉のノブが回る音が響く。誰かが入ってこようとする。それに気づいて素早くマクバーンは転移術を発動させた。光が舞うと一瞬で景色が変わる。殺風景な室内を見回しマクバーンは自室のベッドに転移できた事を確認した。

「ここは俺の部屋だ。誰にも邪魔する連中は来ねぇから、楽しもうぜ」

青くなっていたリィンの頬を撫でる。怯えていた彼からほっとした息が吐き出された。緊張していた身体から力が抜けていく。そして求めるように身体が揺れ動いた。リィンの口から甘い喘ぎが聞こえる。周りに誰も居ないと気配で感づいたのか、押さえていた喘ぎ声ではない。それが心地よくマクバーンは腰の動きを速めた。肌を叩く音と、リィンの内部をえぐる時に響く艶めかしい湿った音。マクバーンの呼吸も乱れてくる。下半身に強い痺れが生まれ、リィンの孔の奥に性器を押し込むと、その先が弾けた。欲が勢いよくリィンに中に注がれる。

「マクバーン!!ああ、あっア、あああ」
「くく、そんなに締め付けるな。まだ時間はたっぷりある」

足りないとばかりにリィンの孔はマクバーンの性器を絡み付き、出した精液を搾り取ろうとしていた。がくがくと身体をふるわせているがリィンの瞳はまだ欲の色で染まっていた。

「血だけではなく、精液も欲しがるようになったか。いいだろう、存分に喰らえ」

それを合図にまたマクバーンは腰を動かしだした。
男の荒い呼吸と、甲高い喘ぎ声、そして卑猥な音と、ベッドが軋む音はそれから数時間も続いた。

ぐったりと裸でベッドの中で気絶したように寝るリィンを隣でマクバーンは見下ろしていた。うっすらと窓から見える朝日の光。投げ出されたリィンの身体には無数の鬱血の跡が残っている。綺麗に洗浄したのでベッドの上も二人にも、汚れた後は消えていた。さすがにリィンの体力がなくなるまで抱き続けた所為で、マクバーンが気付いたらどちらも酷い状態だった。精液と汗まみれ、部屋の中は酷い匂いが籠っていた。今は窓を開けて換気している。
そっとリィンの髪を撫でる。ただ血の対価の為だけ性欲を解消するつもりだけだった。だがそれ以外の感情が生まれだした。それがどんな感情なのかまだ口にすることはしない。すれば間違いなくマクバーンはリィンを攫って閉じ込めてしまう。そんな気がした。朝日が昇りきるまで時間はまだある。それまでマクバーンはリィンの髪を撫でる手を止めなかった。

サイト掲載日 [2020年2月24日]
© 2020 しるくさん

しるくさんからのいただきものマクリン第五弾です♪(*´∇`*)
去年にもらってたものだけど、ようやくアップできました♪
いつもありがとう♪(*´ω`*)

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